YUKI YAMAMOTO山本雄基

育成する深奥

菅 木志雄 (美術家) / 2011
現実の空間を構成しているさまざまなものを
そのまま自分の感覚や意識の中に、
素直にとり入れることは、容易なようで
なかなかできないことである。

なにしろ人間は自我のかたまりというべき動物なので、
自分というものを他と区別してあらしめようとするのは、
ごく自然である。

他との区別を声高にいうのか、それとも特別の気負いもなく、
たんたんと示していくかは、人それぞれによってちがう。
おそらく、山本さんは、後者ではないかと思われる。
作品からすれば、日々の「視点」が安定していなければ、
このような作品は生まれてこないであろう。

彼の作品は、象徴性と抽象性にとんでいる。

ふつう、日常周りにあるものを見たとしても
色や光が先行してとらえられることはほとんどない。

なぜなら、もののちがいを、つまり「存在性」のちがいを
はっきり認識しなければ、
自分がいる空間の様子や個々のもののちがいも、
まして色やかたちだけを自覚するのは、
むずかしいからである。

山本さんの場合、『ちがいを読む』ことがカギになる。
人同士のちがい、人と物のちがい、物と物のちがい、
ものによる空間のちがい、

このようなことは知覚方法によって、大きく異なる。
画面には大小の円の重なりがいっぱいに描かれている。

が、これには、見えない周囲が仮定されていて、
無限の拡散する空間(地)の在り方を想起させる。

拡散といっても、山本さんのものは、
より奥行きを感じさせるものだ。

日常の現実空間はいわば前後左右移動できる、「距離の空間」で
あるけれど、彼の色彩と円形の空間は、
見えない奥を感じさせると同時に反目しないどこまでも
融和する在り方を象徴している。

それは山本さんの生き方そのものに関係しているに
ちがいないのである。

- 山本雄基作品展 リーフレット/ 板室温泉大黒屋 (2011年発行) 掲載
invisible space/ふかしのすきま
2012
26.4×26.4×4cm
invisible space(◯△□)
wooden panel,aclyric
21.7×16.2×3.5cm
2011